アイスランドでメキシコ独立記念日を祝う

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みんなでメキシコ独立記念日を祝わないか?

アイスランドのアーティスト・イン・レジデンスには各国からアーティストが来ていましたが、9月のある日、メキシコ人アーティストが「実はもうすぐメキシコの独立記念日だから、良かったらみんなで祝わないか?」と言い出しました。メキシコ人にとってはとても大事な日で、メキシコではあちこちで祝いの祭が開催されるそうです。国を離れていても、自国の独立記念日にはじっとしていられないようで、どうにかしてお祝いしたいという情熱が伝わってきました。

メキシコの独立記念日をアイスランドで祝うことになるとは全く想像していませんでしたが、かくして、色んな国籍の人たちで平和的にメキシコの独立記念日をお祝いすることになりました。

パーティーでは、メキシコ人アーティストがメキシカン料理を振る舞ってくれました。大音量でノリノリの音楽をかけ、テキーラも振る舞われました。そして、お菓子を入れた段ボール製の箱を、みんなで順番に棒でボコボコに殴り、箱が壊れてお菓子が出てきたら喜ぶ、という儀式をしました。

独立の父、イダルゴ

ネットでよく見かけるイダルゴ神父の肖像画は、写真左上

メキシコ人アーティストに教えてもらったことには、メキシコの独立記念日は9月16日で、メキシコ国内では飲めや歌えや踊れやの祭り状態になるそうです。

「独立の父」と言われるイダルゴ (Hidalgo)が民衆に蜂起を呼びかけたのですが、その時は失敗に終わります。イダルゴは殺されてしまいますが、イダルゴの死をきっかけに独立運動に火がついたそうです。

メキシコ人アーティストの話しぶりから、自国に対する誇りやこの日に対する熱量を肌で感じました。

お祝いの食べ物

とても美味しい

ワカモレ、トマト、玉ねぎ、サルサなどをトルティーヤチップスに付けたり、パンに乗せて食べました。パンも手作りです。お祝いのときには、メキシコの国旗の緑、白、赤にちなんだ食材がよく使われるようです。アボカド、青唐辛子、パクチー、玉ねぎ、トマトなどがふんだんに使われています。さっぱりしていて美味しいです。

お米の甘い飲み物、オルチャタ

ピッチャーに入った白い飲み物がお米のオルチャタ

こちらのピッチャーに入った白い飲み物は、ノンアルコールの飲み物オルチャタ (horchata)で、お米、水、砂糖、コンデンスミルク(またはエバミルク)、シナモンなどを混ぜて作られる、メキシコで人気の飲み物だそうです。さらっとしていて軽いので、何杯でも飲めそうです。日本では、お祝いのときに各家庭で作る飲み物なんてあったかな?と思い返してみました。オルチャタのように材料さえ揃えれば各家庭でその日のうちに作れて、家庭ごとにレシピが存在するような飲み物って、日本にはあまり無いような気がします。お米を使うオルチャタは、日本でも受け入れられそうですが、これまで日本で見かけたことはなく、今回アイスランドで初めて飲みました。

メキシコといえばテキーラ

テキーラはメキシコのお酒です。テキーラといえば、ただ度数が強いだけで美味しさを味わうものではないイメージだったのですが、メキシコから持ってきたというテキーラはとても美味しく感じました。アイスランドの滞在先の村ではお酒を売っておらず、しばらく禁酒が続いていたこともあり、久しぶりのお酒が余計に美味しく感じたのかもしれません。

I love DON JULIO®

テキーラをそんなに好んで飲んだことはありませんでしたが、このDon Julio(ドン・フリオ)は今まで飲んだ中で一番美味しいテキーラでした。それもそのはず、メキシコの数あるテキーラの中でも、王道の人気ブランドだそうです。Don Julioは日本でも商標登録されています。

テキーラの正式な飲み方

メキシコ人アーティストからテキーラの正式な飲み方を指導されました。

左手の甲に塩をひとつまみ乗せます。櫛形に切ったライムを自分の近くに置いておきます。ショットグラスにテキーラを注ぎます。手の甲の塩を舐め、すぐにショットグラスに入れたテキーラを一気飲みし、飲み干したらライムを齧ります。

あまり期待せずに飲んでみたらとても美味しく、その美味しさに驚き、確認のため、2杯、3杯と飲みました。何杯飲んでも美味い。正直もう少し飲みたかったのですが、他の人の分が無くなるので3杯にとどめておきました。良いお酒だからか、酔いませんでした。

メキシコの大作曲家 Agustín Lara

パーティーの間はメキシコの音楽をかけてくれて、メキシコのミュージシャンについても色々と教えてくれました。古い歌謡曲のような歌から、ヒップホップ系の歌まで色々な音楽をかけてくれました。その中でもメキシコの大作曲家 Agustín Lara(アグスティン・ララ)の曲がとても素晴らしく、心に残りました。Farolito という曲をパーティーでかけてくれましたが、他の曲も色々と聴いてみました。ゆったりと落ち着いた曲が多く、曲によっては悲しさも含んでいるのですが、それを丸ごと生来のおおらかさで包んでいるような豊かな感じを受けます。飲み屋さんでこういう曲がかかっていたら気持ちよく飲めそうです。

Agustín Laraの曲はSpotifyでも聴けます。最高です。

お菓子が入った箱をボコボコに殴る儀式

吊るされた白い箱

そしてそんなメキシコの音楽を大音量でかけながら、アパートの外へ出て、お菓子が入った箱を破壊する儀式が始まりました。夜も更けてきていたので、外はかじかむ寒さですが、皆平気なようです。テキーラのおかげかもしれません。

たたき棒を持たされた人は目隠しをされ、吊るされている箱めがけて棒を全力で振ります。箱が壊れるまで棒で殴り続けると、そのうち箱からお菓子が出てきて散らばり、それを拾ってみんなで喜びます。

お菓子を拾って喜ぶ大人たち

本場メキシコでは、張り子のようにして色々な形の箱を作るそうですが、アイスランドでは手に入る材料も限られているので、ダンボールで作ってくれました。このお菓子を入れる箱は「ピニャータ (piñata)」というそうです。今回のピニャータは洗濯機を模しているとのことです。誕生日にお菓子が入った箱をボコボコに殴るカルチャーがあるということは、以前から見聞きして知っていましたが、個人の誕生日だけでなく、独立記念日など国の祝い事の際にもやることを今回知りました。

洗濯機を模したピニャータ
ボコボコにされる前

アイスランドでメキシコ独立記念日を、メキシコ人アーティストと祝う、なんてことはタイミングが合わなければ中々できないことかと思います。貴重な体験ができました。

ボコボコにされたピニャータ

参考文献

  • 中川和彦 2000年 「メキシコ独立の父、ミゲル・イダルゴ=イ=コスティリヤの生涯」 成城大学法学会『教養論集 = Liberal arts review』第15号:1-29