アイスランドで陶芸をする。本焼き実践編

素焼きの後の、本焼き編です。

前回書いたように、焼成中にまさかの停電などがありましたが、それでもどうにか無事に素焼きを終えることができたので、次の本焼きも何とかなる気がしてきました。

素焼き後には、作品のやすり掛けをし、釉薬を掛け、再度窯に詰めて本焼きをする、という工程が残っています。

素焼き後の作品表面の気になる部分や、バリなどをやすりで削り、その後、釉薬をかけます。

今回釉薬は日本から持参しました。透明の釉薬を筆やスポンジで塗ったり拭ったりして、均一ではなくムラがある仕上がりにしました。

オープンスタジオという、アーティスト・イン・レジデンスでの制作発表のイベントが迫ってきていたため、徹夜になりますが焼いていきます。

素焼きの窯出しをしたその日の夜に、釉薬を掛け、作品を再び窯に詰めていきます。そして、窯の温度プログラムを設定していきます。

釉薬を掛けた作品を再び窯へ

アイスランドでの本焼きの温度は日本より若干高い程度で、素焼きの温度ほど差はありませんでした。これもまた素焼きと同様に、正解の温度があるわけではありません。人によって、使用した土や釉薬によって、また、作品の詰め具合などによって、本焼きの温度も違ってくるようです。フランス人アーティストは自国で陶芸をするとき、1280℃で本焼きをすると言っていました。

今回は使用した土と釉薬の推奨温度を考慮し、1230℃で焼くことにしました。

22:56頃、窯の「スタート」ボタンを押しました。本焼き開始です。この時点では、窯の内部の温度は31℃でした。

それから1時間おきぐらいに温度を記録していきます。

日付が変わり、夜中の2:25頃には、窯の温度は344℃まで上昇しました。窯の穴から内部を覗くと、中はまだ赤くなっていません。

朝方4:43頃、552℃になり、窯の中が熱で赤くなってきました。

朝5:30頃、623℃になったことを確認し、窯の蓋を完全に閉じます。

温度記録の合間は、スタジオ内のソファに体を横たえて無の状態になっていました。またいつ停電やトラブルがあるか分かりませんので、あまり本格的には寝ずにいつでも対応できるようスタンバイしておきます。

無の状態
ありがとうソファ

新たな制作をしたり散歩をしたりしながら、1時間おきに窯の様子を確認します。そしていよいよその時が来ました。

昼の12:02頃、目標温度の1230℃になりました。1230℃に到達すると窯の電源は自動的に切れます。あとはゆっくりと冷めるのを待ちます。

夕方17:07頃には、475℃まで冷めていました。翌日に窯出しをすることにして、長い一日を終えました。

翌日、窯出しをすると、みんなよく焼けていて、壊れていませんでした。蓋を開けて、作品に大きな破損がないことが確認できると、そこでようやくほっとでき、じんわりと嬉しさが込み上げてきます。

本焼き後
無事焼けました
施釉したので、うっすらとツヤがあります

時間があれば、最初に釉薬のテストピースなどを焼きたかったところですが、今回は時間も限られていたので、テストピースは焼きませんでした。限られた制作時間の中で、やれることをやり切ったという感じです。

その後も制作を続け、作品が溜まってきたので、焼成第二弾をすることにしました。一部の作品は、まだ完全に乾燥しきっていないようでしたが、超低温じっくり製法で、爆発を回避しながら焼き締めていくことにしました。

焼成第二弾

第二弾の焼成も、大きなトラブルもなく無事に焼けました。焼き締めは、釉薬を塗らないのでツヤがない仕上がりになります。より一層素朴で、石のような風情になりました。

焼き締めの作品
ツヤのない素朴な仕上がりです

焼成第一弾の釉薬ありバージョン、第二弾の釉薬なしバージョンの2パターンを経験できました。釉薬の有無で作品の表情もだいぶ変わります。それぞれに違った良さがあるなと思いました。

そして、やはりアイスランドで入手したこの土の色がなんとも言えず美しいと感じました。今まで使ったことのある日本のどの土とも違った色味をしていて、なんとも言えない土の魅力が詰まっています。アイスランドで、この気温と湿度のもと、じっくりと焼いたからこそ出た色味かもしれません。

これは不思議な現象なのですが、同じ土や釉薬を使って、諸条件を同じにしていても、焼成後の色が違って見えることがあります。それは、気温や湿度が微妙に違ったり、同じ原材料のように見えても、中に含まれるわずかな成分が違ったりすることが、焼成後の色味に微妙に影響してくるからのようです。あるいは、私の目の錯覚かもしれません。しかし、そういったわずかな違いによって、同じものを作ろうとしても、全く同じものは作ることができない、という不思議さに魅了され、多くの人が陶芸を続けているのではないかと思います。土や火というエレメントには、人智を超えた不思議な力が詰まっている気がします。

アイスランドで焼成した作品は、今月末までの期間限定でBASEで販売しています。残すところわずかとなりました。この機会にぜひ見てみてください。