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素焼き前の作品
アイスランドの岩の中に住むという、Huldufólkという精霊に感銘を受けた私は、Huldufólkをテーマに陶芸作品を作ることにしました(Huldufólkの詳細についてはこちらに書きました)。
そして、アイスランドの道端に落ちている、穴の空いた石ころにも感銘を受けた私は、穴がたくさん空いた火山岩のような体をした精霊を作ることにしました。
具体的な作業としては、まず粘土で塊を作り、その中身をくり抜いて空洞にし、外側に針で模様をつけます。文字で書くと簡単そうに見えますが、粘土の固さを調整しながらの作業になるため、意外と時間がかかります。塊をたくさん作るだけで1日が終わり、その次の日には中身をくり抜くだけで1日が終わり、その次の日にやっと針で模様を付けることができる、という具合です。ものを作るのって、とても時間がかかりますね。これを試しに時給換算してみようものなら、とんでもなくブラックなことになりますので、もちろん時給換算はしません。大量生産できない手作りの作品は、この世に一つしかないというところに価値があるのではないかと思います。
そんなわけで、毎日修行僧のように早朝からスタジオで黙々と作った、素焼き前の作品たちを少し紹介していきます。
素焼き前半戦
素焼き当日は朝5時前に目覚めました。スタジオに行き、まずは素焼き前の陶芸作品の写真撮影をしました。素焼き中に何らかの原因で破損するかもしれないので、記録用に撮影しておきます。
その後、窯詰めをしていきます。
窯詰めが終わったら、窯の温度プログラムを設定します。今回は、アイスランドで入手した粘土を使っているため、素焼きの温度も現地推奨の温度に合わせます。郷に入っては郷に従え精神のもと、素焼きの最高温度を950℃に設定しました。日本での素焼きの温度より高めですが、どうなるか…。
そして6:50頃、電気窯のスタートボタンを押し、いよいよ素焼きを開始しました。
それから1時間おきに温度を記録していきます。
600℃を超えるまでは、窯のフタをわずかに開けておきます。作品に含まれる水蒸気などを逃すためです。
焼成中、窯を気にしつつも、新たな制作をしたり、雑務をして過ごします。
13:41頃、ポンッポンッと弾けるようなこもった音が2回しました。まさか窯の中からか?果たして…。
素焼き中、まさかの停電発生
そして14:30頃、悲劇は起こります。
まさかの停電が発生し、スタジオの電気が全て切れました。絶賛素焼き中だった電気窯の電源も、もちろん切れてしまいました。
私的に、緊急事態です。
急いでブレーカーを見に行きましたが、原因が分かりません。外へ出て近所の家の様子などを見てみると、どうやらスタジオだけでなく、村全体が停電しているようです。電気窯のせいでスタジオのブレーカーが落ちたわけではないようです。
そうなると、私一人の力ではどうにもなりません。レジデンスの責任者に連絡を入れたり、うなだれたりして5分か10分ほど経った頃、突然スタジオの電気が戻りました。
電気窯の温度表示の窓には、エラーの文言が出ています。とにかく今から立て直しましょう。プログラムボタンを押すと、私が設定した温度プログラムがまだ残っていてくれました。スタートボタンを押し、素焼きの再開です。LEDランプが「稼働中」の意味の緑色になり、運転が再開されたようです。ここまで終えて、ひとまず安心しました。
日本にいるとき、焼成中の停電は経験したことがなかったのですが、まさかアイスランドで、素焼き中に停電を経験するとは、これがいわゆる「持っている」というやつでしょうか。ある意味、運がいいのかもしれません。通常ではなかなか経験できないことが、勝手に押し寄せてきました。
停電後の素焼き
トラブルがあっても人生が続くように、停電があっても素焼きは続きます。停電復旧後に素焼きを再スタートさせると、電気窯は何事もなかったかのように温度を上げてくれました。
18:50頃、766℃まで温度が上がったことを確認し、一旦アパートへ帰ります。
20:39頃、再び窯を見にスタジオへやってきます。
その後、21:35頃、950℃に到達した電気窯は、自動的に電源が切れました。これで安心して眠れます。素焼き中に破裂音が聞こえましたが、気のせいであってほしい。みんな無事に焼けてますようにと祈り、眠りにつきました。
日付変わって、翌日。
9月でしたが、村周辺は-1℃という寒さです。
朝6:55頃には、窯は216℃まで冷めていました。急に作品を取り出すと冷め割れするため、安全な温度になるまでもう少し冷まします。
他の作業などをして午前中を過ごし、そしていよいよ13:00頃、窯出ししました。どれも爆発しておらず、みんな無事です!
緊張続きの素焼きを終えて
途中でまさかの停電がありましたが、作品には特に影響もなく、どうにか無事に素焼きを終えることができました。苦難を共に乗り越えてくれた作品に対して、愛着も湧いてきます。
この土は素焼き後、少しピンクがかって見えました。
さて、素焼きが終われば、次は釉薬をかけて本焼きになります。
次回、本焼き実践編。お楽しみに。
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