目次
- カウリスマキファンにとって憧れの映画祭
- 映画祭概要
- アキ新作の前売り券は秒で完売
- 近場の宿は満室
- チケットもないがとりあえず映画祭へ向かう
- 映画関係者と観客の距離の近さ
- 朝2時起きで当日券に並ぶ
- 不運は奇跡の始まり
- とにかく行ってみる
今年5月のカンヌ国際映画祭にて、アキ・カウリスマキ監督作品『Fallen Leaves』(原題: Kuolleet lehdet)が審査員賞を受賞したのは記憶に新しいですが、この新作が一般の観客向けにいち早くフィンランドのとある映画祭で上映されました。その映画祭とは、ソダンキュラで開催されたミッドナイトサン・フィルムフェスティバル(2023年6月14日〜6月18日開催)です。
カウリスマキファンにとって憧れの映画祭
このミッドナイトサン・フィルムフェスティバル(Midnight Sun Film Festival. 白夜映画祭やソダンキュラ映画祭とも)はカウリスマキファンにとっては有名な映画祭で、私もいつか行ってみたいと長年思っていました。今回急遽6月の映画祭の時期に時間が取れることになり、さらにアキの新作がこの映画祭にて上映されるというニュースを聞き、映画祭に行くことに決めました。5日間開催された映画祭の全日程に参加しました。私は親しみを込めて、カウリスマキ監督のことをアキと呼んでいます(兄で映画監督のミカと明確に区別する意図もあります)。
映画祭概要
ミッドナイトサン・フィルムフェスティバルは、1986年に映画監督のカウリスマキ兄弟らと、ソダンキュラ市(Sodankylä)によって始まりました。映画祭の開催地ソダンキュラは、フィンランドのラップランド地方の真ん中に位置します。ここは北極圏になるので、夏の間は一日中太陽が沈まない白夜が続きます。映画祭が開催される6月も白夜を体験することができます。映画祭では4つの会場で24時間映画が上映されます。深夜や早朝であっても、外には太陽が明るく輝いています。
アキ新作の前売り券は秒で完売
映画祭では、アキの新作のチケットがオンラインで先行販売されましたが、早々に完売してしまい、入手はできませんでした。フィンランド国内でもかなり人気のある監督なので無理もありません。そして映画好きが集まるこの映画祭です。みんなアキの新作を観たいはずです。
近場の宿は満室
私は6月に時間が取れることが確定してから宿を探したので、他の人よりスタートダッシュが遅れてしまいました。映画祭付近の宿はどこもすでに満室。最終的に、会場からバスで約40分の宿を確保しました。他に選択肢がありませんでした。幸い、映画祭期間中には宿と映画祭会場を結ぶ臨時バスが早朝から深夜まで、本数は多くないですが運行していました。とりあえず宿と足を確保しました。
チケットもないがとりあえず映画祭へ向かう
アキの新作の上映回のチケットは事前に入手できませんでしたが、何はともあれ映画祭に向かいました(映画祭までの大移動については前回の記事を見てみてください)。当日券の販売もあるとのことだったので、当日券をどうにかして手に入れようと心に決めていました。万が一、当日券も取れず、観れなかったとしても、この映画祭の空気を存分に吸って帰ろうではないか。いち映画ファンとしては映画祭に参加すること自体が楽しみになっていました。それほど特別な映画祭なのです。映画祭会場には、映画を楽しもうとする人たちのハッピーオーラがあふれていました。
映画関係者と観客の距離の近さ
日本からは阪本順治監督作品『せかいのおきく』が映画祭にやってきていました。この作品も人気で、狙っていた上映回の前売り券は完売。チケットを入手できていなかった私は当日券狙いで会場へ向かいました。そのとき偶然おきくの製作関係者の方と、日本人ジャーナリストの方にお会いしました。この映画祭の雰囲気の良さや観客の温かさについて、少しお話しもできました。この、人との距離の近さ。それがこの映画祭の魅力のひとつです。大規模な映画祭が嫌いなアキが、監督と観客が分け隔てなく触れ合える映画祭を作りたいと考えて始めたのがこの映画祭なのです。どこからも遠いソダンキュラでやるからこそ、ここに来る人は本当に映画が好きな人ばかりで、映画に対する愛で溢れています。そんなわけで、おきくの当日券を買いにチケットカウンターへ向かいましたが、すでに完売してしまっていました。あとで聞いたところによると、作品は温かく迎えられたということでした。
朝2時起きで当日券に並ぶ
アキの新作の当日券を入手するために計画を立てました。朝2時に起き、サウナに入り、早朝のバスで会場に向かい、別の映画を観てからチケットカウンターに並ぶ、という計画です。本数の多くないバスの時刻を考慮した計画となりました。当日券はチケットカウンターにて9:00から販売開始です。予定通り別の映画を観て、7:30頃からチケットの列に並びましたが、もうすでに結構な行列ができていました。のんきにサウナに入ったり、別の映画を観ている場合ではなかったかもしれません。なかなか厳しい戦いになりそうです。
不運は奇跡の始まり
私の後ろに並んだ人も、「これはチケットの列だよね?」と長蛇の列に苦笑いをしていました。それからその方と少し話をしました。「なぜこの映画祭に来たのか?」と聞かれたので「アキ・カウリスマキのファンだから日本から来た」と答えると「No way!(まじかよ!)」と言っていました。しかしその方もその方で、ドイツのベルリンからアキの新作を観に来たというベルリナーでした。映画のインスティテュートで映写技師の勉強をしながら、助手として授業をたまに持ち、16ミリフィルムで作品作りをしている、ということでした。一人で修行のごとく並ぶ予定だったところに偶然にも話し相手ができ、助かりました。朝7:30から列は一向に進まず、そのうちにオンライン販売が始まる時刻になってしまいました。列に並びながらオンラインサイトもチェックしましたが、アクセスが多すぎるのか、サイトが全く動かなくなるという地獄に陥りました。結局、列に並んでから2時間半後の10:00過ぎにようやくチケットカウンターに辿り着いた時には、アキのチケットはもちろん売り切れてしまっていました。あちこちからガッカリした声、システムの不具合にイラつく声が聞こえました。私も顔には出さなかったものの、心の中では号泣していました。
とにかく行ってみる
チケットは入手できませんでしたが、なぜか諦めの悪いベルリナーと私。それもそのはず、ベルリナーはベルリンから、私は日本から国境を越えてはるばるやって来ているので、ここで諦めたくないという情熱に燃えていました。何はともあれ、上映時刻に会場付近へ行くつもりだ、という意思が二人には共通していたので、「その時刻に再会しよう」と言い、その場は解散しました。
長くなったので後編に続きます…