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オーロラのシーズン
アイスランドでは9月頃から4月頃にかけてオーロラが出現し、条件が整えば街中でもオーロラを見ることができるということです。「冬本番ではない9月でも、本当にオーロラを見ることができるのだろうか」と若干の疑念を抱きながら、アーティスト・イン・レジデンスに滞在していました。
オーロラは太陽フレアのおかげ
そもそもオーロラとは、地球が太陽フレアの影響を受けて起こる現象で、北極や南極といった極地方に近い地域でよく見られます。オーロラが極地方でよく見られるのは、地球の磁場によりこの周辺に宇宙線が集まるためだということです。
地球は常に太陽宇宙線を浴びています。太陽表面で太陽フレアという爆発が起こった際には宇宙線が強くなり、電波障害など我々地球人にとっては好ましくない現象を引き起こします。そうした悪影響がある一方、オーロラのような美しい自然現象も太陽フレアのおかげで見ることができます。
オーロラには色々な色がありますが、オーロラの緑色は大気中の酸素分子と反応して放たれる色だそうです。植物の光合成によって作られる酸素分子が地球の大気中にあるからこそ見ることができる、地球ならではのオーロラの色のようです。
(参考文献リストは末尾にあります。)
ちなみに、土星や木星でもオーロラが発生するそうです。宇宙の不思議を感じます。宇宙のことを調べるのは本当に面白いですね。
オーロラを調べることで、我々が住む地球は、宇宙線がガンガン飛んでいる過酷な環境の中で長い間頑張ってくれているんだった、と思い出すことができました。毎日の生活に追われ、忘れがちでしたが、改めて、ありがとう地球。
オーロラには音がある、という話もあります。これには諸説あり、「それはオーロラが発する音ではなく、寒さによって発生する別の現象の音だ」という説があったりして、オーロラ自体が音を発生させるのかははっきりしていません。オーロラに音があるとしたら、不思議で、なんだかロマンティックですね。できることなら録音してみたいものです。
オーロラを見るための条件
オーロラを見るための条件としては、極に近い地域であることや、夜空が他の明かりに邪魔されずに暗いことや、雲があまり出ていないことなどが挙げられます。
9月のアイスランドでは夜9時を過ぎても太陽が完全には沈んでおらず、空が明るかったので、観測するなら空が暗くなってくる夜9時半以降が良さそうです。
実は、低緯度である日本でもオーロラが時々観測されることがあります。
平安時代末期から鎌倉時代初期を生きた公卿・歌人の藤原定家(ふじわらのていか/さだいえ)は、1204年にオーロラを見たようで、空が赤くなったことを『明月記(めいげつき)』という日記に記録しています。
日本から見ることができるオーロラはたいてい赤色のようです。これは日本の緯度から空を見たときに、オーロラの上の方の赤色の部分しか見れず、下の方の緑色の辺りは見ることができないからだそうです。
オーロラ予報
アイスランドでは、アイスランド気象庁によるオーロラ予報 (Icelandic Meteorological Office) が出され、天気予報のようにオーロラ発生の確率を教えてくれます。
これを毎日チェックしていると、今日はオーロラが出るかも、と予想ができます。オーロラの出現を100%保証するものではありませんが、オーロラ観測の一助として、私も毎日チェックしていました。
実録・オーロラとの遭遇
毎日滞在先のスタジオで粘土制作に精を出していた、9月中旬のことでした。オーロラを見たいとは思っていましたが、あまり期待せずに過ごしていました。夕焼けが美しかった日の夜のことです。アイスランドの9月は日が長いので、夜9時半を過ぎても、遠くにうっすらと明るい空が広がっていました。夜9時半過ぎ、スタジオからアパートに戻り、早々に寝る支度をしていると、他のアーティストから「オーロラが出てるぞ!」という連絡が突然入りました。急いで上着を着て、下はジャージのズボンだけで、アパートの外へ出ました。空を見上げると、うっすらと白い雲のようなものが出ていました。それがオーロラだったのです。オーロラとの初めての遭遇です。その白い雲のようなものはどんどん大きくなり、ついには緑色の大きなカーテンのような姿に変わりました。そのカーテンはゆっくりと揺れ続け、どんどんと形を変えていきました。思わず驚きの声を上げてしまいました。外は手がかじかみ、耳や鼻が凍ってしまいそうな寒さで、アイスランドではお馴染みの猛烈な強風が吹きつけてきます。そんな過酷な状況ではありましたが、オーロラの神秘的な色や動きに見とれてしまいました。オーロラの動きは時間が経つにつれてどんどん大きくなっていくようでした。大きく揺らめいて、オーロラはついに私の頭の真上までやってきました。真下から見上げたオーロラ。宇宙の神秘が今、私の頭の上にいます。ゆらゆら動く不思議な存在に吸い込まれそうになります。ありがとう、オーロラ。オーロラはマイペースに私の頭上で揺れ続け、しばらくするとゆっくりと離れていきました。
良いことばかりでなく、電波障害などの悪影響もあるけれど、ありがとう、太陽フレア。その日は日付が変わる頃までしばらく興奮が冷めませんでした。
その後も、オーロラはたまに現れ、9月中に合わせて3回くらい見ることができました。
1回目(9月中旬)
この数時間後にオーロラが出現するとはつゆ知らず、夕焼けの写真を撮っていました。
オーロラとのファースト・コンタクトです。
オーロラとの遭遇に動揺を隠せません。カメラのピントも合いません。
街灯が明るく、夜空を邪魔していますが、それでも緑色のオーロラが見えます。
オーロラはどんどん形を変えていきます。
昔の人はこれを見て何を思ったのでしょうか。
真下から見たオーロラです。
自分の人生において、オーロラを真下から見る日が来るとは思ってもいなかったため、動揺します。
実際にオーロラを見るまでは、オーロラは特殊な(高級な)カメラレンズを通してしか見ることができないのではないかと疑っていましたが、肉眼でもはっきり見えるものだということが分かり、大変驚きました。
2回目(9月中旬)
曇りのため、初回のオーロラほどではありませんでしたが、揺らめくオーロラが見えました。
刻々と変化していきます。
カーテンのようになびいています。外はかなり寒いです。
3回目(9月下旬)
この日も、初回のオーロラほどではありませんでしたが、うっすらと穏やかなオーロラが見えました。星もたくさん出ていました。ありがとうアイスランド。
アイスランドの天気
9月のアイスランドは、夜にオーロラを見ることができるくらい、とても寒いです。また、都市部のレイキャビクと、山間部や沿岸部とでは気温差があります。私が滞在先でオーロラを見た日の夜の気温は-1℃くらい。強風だったので体感温度はもっと低かったと思います。都市部であるレイキャビクの同じ頃の気温は8℃くらい。だいぶ気温差があります。
9月のアイスランドにはまだ夏の名残があり、緑色をした草原が一面に広がっていて、山々にもまだ雪が被っておらず、晴れていれば日中は暖かいことも多かったです。
ただし、アイスランドの天気は大変変わりやすいです。晴れていたと思ったら霧が出てきたことが何度もありました。そして、たいてい強風が吹いています。そのため、道路状況も変わりやすいです。車を運転する場合には、道路状況をこちらのサイト (road.is) で絶対にチェックするよう、レジデンスの責任者に言われました。実際、9月でもブリザードの日があり、そういう日には「不要な運転をしないでください」といった注意書きが出ていました。
オーロラを見るときの服装
服装には注意が必要です。ジャージのズボン一枚では震えました。せっかくなら完全防備で臨みたいところです。
私が実際に9月のアイスランドで何度かオーロラを見て学んだ、ベストな格好はこんな感じです。
- 長袖シャツ+薄手のセーター+パーカー
- その上にユニクロのウルトラライトダウンジャケット
- さらに上から防水ウィンドブレーカー
- 下はヒートテックの股引き+冬山用ズボン
- 厚めの登山用靴下
- スノーブーツ
- 手袋、マフラー、ニット帽
9月でこれです。冬本番の季節だともっと本格的な装備で臨む必要があると思いますので、行く季節に応じてアレンジしてみてください。
アイスランドへ行く準備をしていた時期は、8月の蒸し暑い頃だったので、寒い国へ行くという想像が中々膨らまず、「こんなに装備が必要だろうか?」と思いながら荷造りをしていましたが、実際に来てみたら強風が吹き荒れており、夜はとても寒かったので、準備万端にしてきてよかった、と思ったのでした。
9月頃でしたら薄手のダウンジャケットとウィンドブレーカー等々を重ね着すれば間に合いました。昼間の暖かい時には脱ぎ、夜になったら全部着込むという着方で過ごせました。
アイスランドは年間を通じて風が強い国なので、夏でもウィンドブレーカーや上着は必須です。レジデンスの説明では、「もし冬にアイスランドへ来るなら、クランポン(いわゆるアイゼン、雪山用スパイクのこと)を持って来い」とのことでした。冬にアイスランドへ行く場合、ましてや屋外でオーロラ鑑賞をする際には、より暖かい装備が必要そうです。
参考文献・参考URL
- 『市民科学メガネ』池内了著、BIG ISSUE Vol.433 (2022年)
- 『自然が織りなす光のショー惑星オーロラの魅力』サラ・V. バッドマン著、藤本正樹訳、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) (2010年)
- 『明月記』藤原定家筆、国立文化財機構、国宝・重要文化財 e国宝
- 『明月記』と『宋史』の記述から、平安・鎌倉時代における連発巨大磁気嵐の発生パターンを解明、国立極地研究所ほか (2017年)